タクト×シャトヤーン

「平和って、良いものだねぇ……」
ある若い将校が、笑いながら歩いている。
その将校、タクト・マイヤーズは、白き月に遊びに来ていた。
「シヴァ様…最近会ってなかったけれど、どのように成長されたのかな?
チェスも上手くなってるかなー?」

少し歩くと、そこは白き月の神殿。
月の聖母、シャトヤーンが住んでいるのである。
「あの…シヴァ様にチェスの教授に参りました。」
美人の侍女さんに、タクトは話しかける。
侍女さんは、畏まりました…と言い、扉を開ける。

「シヴァ様…タクト・マイヤーズがお見えになりました。」
そう侍女さんが告げると……
奥から足音が聞えてくる。
「タクトっ!!久しぶりだな…!」
「えぇ、お久しぶりです。シヴァ様。」
そう、タクトが言いながら、皇族に対する礼をとった。
「よさぬか、私はもう皇族ではないのだぞ…?」
「はは、そうでしたね。しかし、シヴァ様。随分成長なされましたね?」
シヴァはもう15歳。
背丈もあの頃よりは伸び、胸も母親…シャトヤーンに似たのか、大きくなって。
顔には幼さが残るものの、綺麗が形容する端正な顔立ちになられていた。
「当たり前だ。もう、あの時から5年も経っているのじゃぞ?
どんなに成長が遅い者でも、少しは変わるものであろう。」
いや、俺は胸の事を…とタクトは思ったが、それは口に出さない事にした。
一介の女にそのような事を言えば、叩かれるのは必至。
それでいて彼女は次期、月の聖母なのだ。叩かれるどころではない。
さっきの侍女さんに、切り殺されているであろう。
「まぁ、そうですね。
それで、今日はチェスを教えに来ましたよ。」
そう、タクトが言うと、シヴァは目を一杯に開いて嬉しそうな顔で
「おぉ!それは大儀だ!!早速やろうではないか。
成長した私の力…篤と思い知るがいい!」
元気よくシヴァは言い放ち、奥へと手招きしてきた。
「はぁー、やっぱり綺麗なところだなぁ…」
奥に入り、タクトは感嘆の念を洩らした。
「そうか?私なんか見飽きてしまったよ。」
そういいながら、シヴァはチェスの盤をテーブルに置いた。
腰掛けてくれ…と言われたので、タクトは椅子に座った。
「今、お茶を出させるからな。待っていろ。」
そう、言うと、侍女さんがすぐにお茶を持ってきてくれた。
シヴァも椅子に腰掛け、タクトと向かい合った。
「それじゃ、軽く一戦やりましょう。」
そう言って、タクトは自分の駒を動かす…。

もう、どれくらい経ったのだろうか?
シヴァと談笑しながらチェスを打っていたのだが…。
「(まぁ…いいか。今日は非番だしね。)
ん?シヴァ様…いい手ですね?」
「瞬間、閃いたんじゃが…いい手か?」
「えぇ…俺、手に困っちゃいますよ…こんな手を打たれては」
苦笑いしながら的確な場所に駒を進める。
その時だった。
「シヴァ……?」
「あ、シャトヤーン様っ!!」
シャトヤーンが現れた。
容姿端麗、頭脳明晰。
文句なしの人だ。
なんと言っても、男心を悩殺する胸……。
「シャトヤーン様…お久しぶりです。」
タクトはそう言い、ペコリと頭を下げた。
「えぇ…マイヤーズ司令…お久しぶりですね。」
綺麗な声で、丁寧に礼を返してくれる。
こんな人が奥さんならなぁ…と、密かにタクトは思ってみる。
「?どうしました?マイヤーズ司令…?」
「あ、い、いえ…。なんでもないですよ。」
思わず見惚れてしまっていた…。
恥かしさから、苦し紛れの乾いた笑い声を上げる。
「シャトヤーン様、今日はタクトがチェスを教えに来てくれたんですよ。」
「あら、そうなんですか…。
有難う御座います、マイヤーズ司令。」
そう言って、タクトに微笑みかける。
釣られてタクトも微笑んでしまう。
もっとも、その微笑みは、男心の下心から来るものであろう。
「何を、ニヤけておるのだ、タクト?」
シヴァの鋭いツッコミが綺麗に決まる。
「とほほ…」
タクトは頭から煙を出しつつ、嘆いていた…。
「(すっかり遅くなっちゃった…。)」
そう思いながら、シャトヤーンの手作り料理を食べていた。
チェスをやりに来ただけなのに、晩御飯も出してくれた。
「お味は…どうですか?」
シャトヤーンがタクトに聞いてくる。
タクトは、「宇宙芋の煮っ転がし」を箸で口に運び、嬉しそうな表情で、
「美味しいですよ。
シャトヤーン様、料理…出来たんですね?」
何気なく口走ってしまった。
「それは…私には似合わない…って事ですか?」
「あっ…!!?」
…もう手遅れである。
シャトヤーンの頬はみるみる紅潮し、目じりには涙が溜まっている。
「ち、違いますよ!!俺はそういう意味で言ったわけじゃ…」
「いいんですよ……」
そういうと、シャトヤーンは席を立ち、奥の自室に戻っていった。
「…どうしたもんかな……」
そう思い、箸を置く。
「(そういえば、シヴァ様は…?)」
さっきから姿はあるのだが、声が聞えなかった。
チラッとシヴァを見やると、俯き静かだった。
「シヴァ…さま?」
肩を揺すってみる…。反応が無い。
「寝ちゃってる…?」
よほど疲れたのであろう。
好きな人が突然やってきて、ずっとはしゃいでいたのだから。
タクトは抱きかかえると、最寄のソファに、シヴァを寝かせた。
「風邪…ひくかな…?」
マントを外し、シヴァにかけてあげた。

シャトヤーンはそのころ、部屋で咽び泣いていた。
「なんで…涙が…」
そう思っているのだが、自然と出てくる。
「ただ…料理が似合わないと言われただけなのに…」
とりあえずタクトは、シャトヤーンに謝ろうかと考えていた。
「うーん…どうしたもんか……」
久しぶりに彼を、悩ませた。
「えぇい、悩んでもしょうがない。
とりあえず、行こう!」
思い立った矢先、瞬間移動でもしたかのような速さで、部屋の前に来た。
侍女さんが二人ほど、扉のまえで見張っていた。
「あの…」
タクトは、優しそうな顔つきの侍女さんに声をかけた。
「はい、貴方は入れないようにと、言われました。」
事務的に侍女さんは返してくる。
その返答に少し…いや凄く戸惑いを感じながら…
「入れてください。」
いつもとは違う真剣な顔つきで、侍女さんに言う。
「入れません。」
これまた事務的に返されてしまう。
「どうしても……?」
「えぇ…」
侍女がそう言った刹那、タクトの右拳が侍女さんの腹に入る。
その場に、侍女さんは崩れ落ちる。
横で見ていたもう一人の侍女さんは、腰を抜かして屈んでいた。
「シャトヤーン様…。」
タクトは重いドアを開け、そう言う。
真っ暗な部屋…。鼻水を啜る音が響き渡る。
「(何も見えない…。まぁ、いいや。)
えっと、シャトヤーン様。先ほどは申し訳御座いませんでした。
一つ、言わせて貰います。
私は、あぁいう意味で、そう言ったのでは御座いません。
むしろ、似合ってると思います。」
タクトは、一つ一つ、発音に気をつけ、シャトヤーンに伝えた。
「ただ、月の聖母というものは料理の修業なんて
する時間がないと思ったのです。
だから…申し訳御座いません。」
暗がり…。シャトヤーンにもタクトは見えないと思う。
が、タクトは律儀に礼をした。
「もう…いいんですよ…。」
暗がりの奥から声が聞える。
「そういうつもりで言ったんじゃないんですね…?」
その問いかけにタクトは、
「はい。」
その一言だけだった。
ただ、その一言は凄く奥が深いものだが。
「すみませんでした…私とした事が…」
そう言って鼻水を啜る音が聞える。
「……いいんですよ?」
タクトは暗がりに向かって言った。
「泣いてもいいんですよ。
シャトヤーン様だって…人間です。
一人の女性なんですから。」
「マイヤーズ…司令……」
そう聞えたと思ったら、後ろから抱き締められていた。
「マイヤーズ司令…ありがとう…ございます。」
「いいんですよ。どうせ、こんな言葉くらいしかいえないんですから」
ははっと、乾いた笑い声を洩らし。
「そんなこと無いですよ…。あの…マイヤーズ司令……」
「あ、ハイ。なんですか……?」
「………」
「シャトヤーン様…?」
沈黙…。
時が止まったのかのような感覚だろう…。
「シャトヤーン…様?」
「……好きです…」
「へっ!?」
あまりに唐突すぎた。
タクトの思考回路は、状況判断の為に、必死だろう。
「なんででしょう…好きに…なってしまって……」
タクトの身体を抱き締める腕に力が入り、
「好き……。」

もう、タクトの頭の中は真っ白だった。
あれだけ憧れたシャトヤーンから「好き」と言われて…。
「あ、迷惑なら…いいんです…」
タクトを抱き締める腕から伝わる温もり…
優しさに満ち溢れ…
愛情に満ち溢れ…。
「…うん。」
たった一言。
だが、シャトヤーンからしてみれば、
その「うん」の一言…
それだけで、100回好きと言われるより、嬉しくなった。
嬉しく、なれた。
「ありがとう…ございます…。」

両腕の力が弱まる…。
タクトは、その瞬間。クルリと向きを変え、シャトヤーンと向き合う。
そして、安堵の表情をしているシャトヤーンの右頬に軽くキスをした。
「あ……」
「あはは、やっちゃった!!」
「マイヤーズ司令ったら…」
シャトヤーンは頬を赤らめ、俯く。
「あぁ、そうだ。
これからは俺のことをタクトって呼んでくれよ?
ね?シャトヤーン。」
いつもの間抜けな顔でそう言う。


「……うん……」



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