エオニア軍に囚われたミルフィーユが救出されたのは、先の戦闘から1週間が過ぎた頃であった。
 タクトはフォルテからの通信を受けるや否や、ブリッジを飛び出し、格納庫に向かった。
 ハッピートリガーが着艦し、降りてきたフォルテにタクトは駆け寄った。
「フォルテ! ミルフィーは!?」
「ああ、司令官どの。ミルフィーなら無事だよ。……ただ、今ちょっと具合が悪いようなんだ。
落ち着いた頃にまた連絡するから、少しの間そっとしておいてやってくれないか?」
 フォルテの言葉に、タクトは言い知れない不安を感じた。
「……ミルフィーに何かあったのか?」
「……その件に関しては、後で報告するよ。今は早くミルフィーを休ませてやりたいんだ。
アタシを信用して任せてくれ?」
「判ったよ……。ミルフィーの事はフォルテに任せる」
 タクトはそれでも心配そうに紋章機の方を見た。コクピット内にミルフィーユの姿がある。
 ミルフィーユはチラリとこちらを見たが、目が合った瞬間、恐ろしい物でも見たかのように、
座席の陰に隠れてしまった。
 タクトはなおも名残惜しそうに紋章機を見つめていたが、やがて肩を落として格納庫を
出て行った。

 3日後。司令官室にフォルテが訪ねて来た。
「司令官どの、ちょっと良いかい? ミルフィーの事なんだが」
「ああ、ミルフィーはどうしてるんだい?」
 タクトは沈鬱な表情で尋ねた。あれから何度かミルフィーユの部屋に足を運んでいるのだが、
会う所か、ロクに話す事も出来ていなかった。どうも避けられているようなのである。
「……一応は元気だよ。ただ、ね……」
 フォルテは言いながら表情を曇らせた。この先を話すか思案している感じであった。
「頼むよ、フォルテ。ミルフィーがどうしてるか聞かせてくれないか?ミルフィーは……
オレを避けているようなんだ。理由は、その……判らないけど……」
「……本当に判らないのかい?」
 フォルテは射抜くような眼差しでタクトを見据えると、静かに言い放った。
 タクトはそのフォルテから目を逸らせた。
 実の所、タクトには、ミルフィーがなぜ自分を避けるのか、漠然とした予想がついていた。
 しかし、それは決して現実であってほしくない予想であった。
「率直に聞くが……オマエさん、ミルフィーの事、どう思ってる?」
「どうって……」
「ミルフィーの事、愛しているのかい?」
「…………」
 タクトは顔を伏せ、少しためらった後、キッと顔を上げ、ハッキリと答えた。
「ああ、愛している。一人の隊員に過度の思い入れを持つのは、司令官としては失格かもしれない。でも、オレは司令官である以前に、一人の男としてミルフィーを愛している」
「何があろうと、あの娘の事を信じて、そばにいてやれるかい?」
「もちろんだ……」
 タクトは正面からフォルテを見据えた。
「……オマエさんが司令官で良かったよ」
 フォルテは弱々しいながらも笑みを浮かべ、タクトを見つめた。
 少しの逡巡の後、フォルテは表情を引き締め静かに語り出した。
 その内容は、やはりタクトの予想通りであった。


「ミルフィー、ちょっといいかい?」
 フォルテはミルフィーユの部屋のドアをノックした。
「あ、フォルテさん……。どうぞ、入ってください……」
 ドアの向こうから、消え入りそうな声でミルフィーユが答えた。以前とは比べ物にならないぐらい、か弱い声であった。
 フォルテは部屋へ入り、ベッドの上で膝を抱えて蹲っているミルフィーユを見つめた。
「ジャマするよ」
 フォルテはミルフィーユのすぐそばに腰を下ろした。
「なあ、ミルフィー。アンタの気持ちは判るけど、いつまでもそうしてはいられないんじゃないか?」
 フォルテは単刀直入に語り始めた。
「アタシたちの任務はシヴァ皇子を守る事だ。敵が来たら戦わないといけない。
そうすれば、イヤでも司令官どの……タクトの前に出ないとダメなんだぞ」
 タクトの名前が出た瞬間、ミルフィーユは体をビクリと震わせた。
「でも……わたし……もう、タクトさんには会えません……だって……だって……」
 ミルフィーユは抱えた膝に顔を埋め、嗚咽を漏らし始めた。
「ミルフィー、アンタ、タクトの事信じてないのかい?」
「信じてます!信じてますけど……でも、わたし……」
 ミルフィーユは顔を上げ、フォルテを見た。その瞳から、とめどなく涙が溢れていた。
「だからといって、この先一生タクトを避け続けるのかい。好きなんだろ、タクトの事」
「……好きです。好きですけど、だからこそ会えないんです……」
 ミルフィーユは再び顔を伏せて泣き始めた。
「実はね、今、部屋の外にタクトがいる」
「え……?」
 ミルフィーユは驚愕と恐怖が入り混じった顔でフォルテを見つめた。
「何も話さなくてもいい。ただ、アンタはタクトと会う必要がある。このまま避け続けても、
お互いに傷つけあうだけだよ」
 フォルテは立ち上がり、ドアの方へ向かった。
「い、いやっ!フォルテさん、やめてください!!」
 ミルフィーユはベッドから立ち上がり、フォルテに縋り付こうとした。
 しかし、その前にドアが開き、フォルテは道を譲るように移動した。
「あっ!」
 縋り付く目標を失ったミルフィーユは、つんのめるように部屋の外に飛び出した。
 その目の前にはタクトが立っていた。
「ミ、ミルフィー……」
「タ、タクトさん……」
 ミルフィーユは驚愕に目を見開き、慌てて部屋の中へ戻ろうとした。
「待って、ミルフィー!」
 タクトはミルフィーユの腕を掴み、強引に自分の元へ引き寄せた。
「いや! 離して!」
 ミルフィーユは腕を振り解こうと懸命にもがく。しかし、タクトは手を放そうとはしなかった。
「ミルフィー!!」
 タクトはミルフィーユの両肩を押さえ、一喝するようにミルフィーユを呼んだ。
 ミルフィーユは体をビクリと震わせて、動きを止めた。
 タクトは苦虫を噛み潰したような顔でミルフィーユを睨みつけた。
 だが、すぐにホッとしたような、安堵の笑みを浮かべ、ミルフィーユの体を抱き締めた。
「ミルフィー……やっと会えた……」
「タク……ト、さん……」
 耳元で囁かれたタクトの言葉に、ミルフィーユの瞳からとめどなく涙が溢れ出した。
「タクト……さん……。タクトさん! わたし……わたし……うっ……ううっ……」
 ミルフィーユはタクトの胸に顔をうずめ、堰を切ったように泣き始めた。
 最初はか細く、やがて胸の中に溜まっていた物を吐き出すように、大きな泣き声を上げる。
 タクトはミルフィーユの髪を優しく撫でた。そして、傍にいるフォルテに視線を送る。
「それじゃあ、ミルフィーの事は頼んだよ、司令官どの……いや、タクト」
 フォルテはニッコリとほほ笑み、ミルフィーユをタクトに託すと、自分の部屋に入って行った。
「ミルフィー……とりあえず、中に入れてもらっても良いかな?」
 タクトはミルフィーユを抱き締めたまま、そっと囁いた。
 ミルフィーユは涙を湛えた瞳でタクトを見つめ、小さく頷いた。

 部屋の中に移動し、二人は並ぶようにベッドに腰掛けた。ミルフィーユはすでに泣き止んでいたが、
俯いたまま口を閉ざしていた。
 タクトもまた口を開く事なく、ただミルフィーユの肩を抱いていた。
 そのまま10分ほどが経過し、初めてミルフィーユが声を発した。
「……何も……聞かないんですか……?」
「……ああ、聞かないよ。聞く必要も無い。こうしてミルフィーの隣にいられるだけで
幸せだからね」
 タクトは優しい笑顔でミルフィーユを見つめた。しかし、ミルフィーユは、その視線を避けるように俯いたままだった。
「何で……そんなに優しくしてくれるんですか……」
「ミルフィーの事が好きだからだよ。誰よりも大事な人だから……」
 タクトの言葉に、ミルフィーユは静かに肩を震わせる。また涙がこぼれ出していた。
「わたし……うれしいです。わたしも、タクトさんの事好きだから……。でも!」
 ミルフィーユは悲しみと決意を秘めた瞳でタクトを見つめた。
「だからこそ……わたし、タクトさんの気持ちに応えられません。だって、わたし……わたし……」
「いいんだ、ミルフィー。何も言わなくていい」
「わたし、エオニア軍の人たちに……」
「何も言わなくていいんだ!!」
「犯されたんです……」
「…………」
 タクトは言葉を失った。その表情が苦痛に満ちた物になってゆく。
「わたし、もう汚れちゃったんです。タクトさんの気持ちを受け入れる資格なんて無いんです……」
 ミルフィーユは涙を流し、諦観がもたらす渇いた笑みを浮かべた。
 タクトは唇を噛み締め、何かに耐えるように下を向いた。
 タクトの脳裏に、司令官室でのフォルテとの会話が蘇った。
『敵軍に捕まった若い女がどんな目に遭うか、オマエさんも想像はつくだろう?』
『……じゃあ、やっぱりミルフィーは……』
『ああ、敵兵達の慰み者にされてたよ……。アタシが駆けつけた時なんざ、そりゃあヒドイ
有様だった』
『何を……されてたんだ……?』
『アタシの口からはとても言えないよ……』
『そうか……』


「……は関係無い」
 苦虫を噛み潰したような顔で俯いていたタクトは、ボソリと呟いた。
「え……?」
「そんな事は関係無い!」
 タクトはそう言い放ち、ミルフィーユを見つめた。
「ミルフィーはどこも汚れてなんかいない! 何も変わってないさ!」
「タクト……さん……」
「何があったって関係無い、オレはありのままのミルフィーが好きなんだ!」
「…………」
 ミルフィーユはゆっくりと立ち上がり、タクトの正面に移動した。
「これを見ても、そんな事言えますか……?」
 ミルフィーユは1枚づつ、着ていた服を脱ぎ始めた。
「み、ミルフィー!?」
「わたしの体、良く見てください……」
 着衣を全て脱ぎ捨て、ミルフィーユはタクトにその裸身を晒した。
「この体を見て、まだ好きだって言えますか?」
「な……」
 タクトは思わず絶句した。そこに現れた物は予想以上の物であったのだ。
 ミルフィーユの白い肌の全体に、クッキリとした縄の痕が付いていた。
 赤黒い痣が、亀甲縛りの形で全身を走っていた。
 それだけではない。体中にキスマークや蚯蚓腫れ、ヤケドの痕などがあった。
 さらにタクトを驚愕させたのは、両の乳首に付けられた、リング状のピアスであった。
「わたし、エオニア軍の兵士たちに犯されました。ほとんど休む間も無く犯され続けたんです。
しかも、途中からは、わたし自らが望んで犯されてたんです。わたしは……そんな女に
なったんです……」
 ミルフィーユは暗く澱んだ瞳でタクトを見つめ、うっすらと笑みを浮かべながら、タクトにピアッシングされた乳首を見せつけるように乳房を持ち上げた。
「このピアスだって、無理やり付けられたんじゃないんですよ? わたしが自分でお願いしたんです。その時、わたし何て言ったと思います?
 『皆さんのペットになりますから、もっとわたしをイジめてください』て言ったんですよ。こんな、こんな女なんです……」
 ミルフィーユはなおも微笑んでいたが、その瞳から一筋の涙が流れた。
「わたし……初めてだったんです……」
「え……?」
「敵に捕まったわたしは、すぐに司令官室に連れていかれました。わたしだって軍人です、拷問まがいの尋問は覚悟していました。
でも……尋問どころか、わたしはその場でレイプされました。それがわたしのロストバージンでした……」
「ミルフィー……」
 タクトは声をかけようとしたが、それよりも早くミルフィーユが言葉を接ぐ。
敵艦に乗っていた人たちに、順番に犯されたんです」
「その時、3回犯されました。3回目は、オシリを犯されました。わたしが『痛い』って泣き叫んでも、止めるどころかニヤニヤ笑いながら、激しくされました。その後は、部屋の外に連れ出され、
敵艦に乗っていた人たちに、順番に犯されたんです」
 ミルフィーユは虚ろな目つきのまま、その場にへたり込んだ。
「それから2日ぐらい、本当に地獄でした。わたし、何度も死のうかと思いました。でも、そんな事を忘れてしまうぐらい、何度も何度も犯されたんです。
そうしていると、不思議なものですよね、いつの間にか辛くなくなっていたんです。
3日目ぐらいから、わたしは自分から進んで快感を貪っていたんです。そうしないと……壊れてしまわないと……とても耐えられなかったから……」
 ミルフィーユは再び立ち上がると、タクトに背を向けた。
 その仕草の痛ましさに自然と俯きそうになったタクトの視線が、ミルフィーユのヒップの辺りで止まる。その肉付きの良い双丘に、太い字で『司令官専用』という文字と、明らかに菊門を指し示している矢印が書かれていた。
「このオシリの字……刺青なんです。敵の司令官に入れられました。そうして、刺青を入れ終わった後『オマエのケツ穴はオレ専用だ。誰にも使わせるなよ。もし、オレ以外に許したらオシオキだ』って言われました。
わたし、命令を守るつもりでした。でも、敵艦の人たちは、そんな事に関係無く、わたしのオシリを犯すんです。わたしが、敵の司令官に言われた事を伝えても、兵隊さんたちは、『だったら、なおさらケツを犯してやる!』って言うんです……」
 ミルフィーユの自嘲めいた告白は続く。
「もちろん、お仕置きされました。ムチで叩かれたり、ロウソクを垂らされたり……。
そうして、何度も言わされるんです『わたしはチ○ポ狂いのメス豚です』って。
そんな事が一昼夜続けば、感覚がマヒしてくるんです。精神的にも、本当に……メス豚になっちゃうんです……」
 ミルフィーユはもう一度振り返り、じっとタクトを見つめた。
「身も心も堕ちてしまえば、ツライ事は無くなりました。あとは……彼らのオモチャとして、彼らが望むように振舞えば良いんです。何も考えず、与えられた快楽をただ貪れば良いんです。
わたしがフォルテさんに助けられる寸前まで、何をしていたか判りますか?」
 そんなミルフィーユの問いに、もちろんタクトは答えられない。
「わたし……見世物として、犬とSEXしてたんです。四つんばいになって、後ろから犬のペニスに貫かれて、腰を振って悦んでいたんです。そんなわたしを見た時のフォルテさんの顔……。
それでも、わたしはフォルテさんに見られてる事に興奮して、犬の精液を膣に注ぎ込まれながら
イッたんです……」
 そこで言葉を切り、ミルフィーユは泣いているような、笑っているような、何とも形容し難い表情を浮かべた。
「ね? わたしはこんなにキタナイ女なんです。ホラ、見てください」
 ミルフィーユは恥部に手を伸ばし、ヴァギナを濡らす淫液を指ですくった。
「話しながら、自分のされた事を思い出して、こんなに濡れるヘンタイなんです。
こんなわたしでも、まだ『好きだ』なんて言えますか?」
 無理やり笑顔を浮かべ、ミルフィーユはタクトに詰め寄った。
「もちろんだよ……」
 タクトは躊躇する事なく、ミルフィーユの体を抱きしめた。
「さっきも言ったろ? 何があっても関係無い。オレはありのままのミルフィーが好きだよ」
 そう言って、タクトはそっと唇を重ねた。
「!?」
 緊張でミルフィーユの体が強張る。だが、その優しい唇の感触に、自らの体を抱く腕のぬくもりに、次第にミルフィーユは力を抜いていった。
「オレは……全てを受け入れるよ。その上で、誰よりも強く愛してみせる。だから……オレの傍にいてくれ。キミはオレの……幸運の女神だから」
「タクトさん……本当に、本当にわたしみたいな女を愛してくれるんですか?」
「当たり前だろ? この銀河の誰よりも、ミルフィー……キミが好きだよ!」
「タクトさん……タクトさぁぁぁぁぁぁん!!」
 ミルフィーユはタクトの胸に顔を埋め、大声で泣いた。全てを涙で洗い流すように。
 タクトはただ、そのミルフィーユを抱きしめながら、優しく髪を撫で続けた。
「とりあえず、辛いだろうけどケーラ先生とヴァニラに診てもらった方が良い。
体の傷は、それでキレイに治るよ。心の傷は……オレが一生かかってでも癒してみせる。
だから、オレを信じて任せてくれるかい?」
 タクトはミルフィーユの肩を抱き、優しくささやいた。
「はい、わたし……タクトさんを信じます」
 涙で目を腫らしながらも、けなげにミルフィーユは微笑んだ。その笑顔は、先程までの、
悲しみの混じった諦観めいた笑みではなく、心からの笑顔であった。
「そうか。なら支度して、ミルフィー。イヤな思い出は少しでも早く忘れた方が良いからね」
「ハイ、タクトさん!」
 ミルフィーユは立ち上がり、脱いだ衣服を身に纏い始めた。
「じゃあ、オレは外で待ってるから……」
 静かな笑みを浮かべて、タクトはドアに手をかけた。その瞬間、背後からミルフィーユが抱きついてきた。
「ミ、ミルフィー!?」
「タクトさん、一つお願いがあります……」
 ミルフィーユはタクトの背中に顔を埋めるようにして言葉を続けた。
「傷とか全て消えて、見た目だけでも元通りキレイになったら……わたしを抱いてください」
「え……」
「タクトさんのぬくもりで、全部……忘れさせてください。ダメ……ですか?」
「ダメなもんか。判ったよ、ミルフィー。オレが……全部忘れさせてあげるよ」
 体を抱きしめるミルフィーユの手をそっと解くと、タクトは再びミルフィーユを向き合う。
「この先ずっと、何があろうとも、ミルフィー……キミを守る。守ってみせる、永遠に!」
 タクトはミルフィーユを強く抱きしめ、誓いの言葉とキスを送った。
 
愛に包まれた二人は、お互いの欠けた部分を補うように、そのぬくもりを求め合うのであった。

                                END


君が好きだよ〜守って、守ってあげるから〜

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