タクト×ヴァニラ

人を好きになると何も手につかなくなる。
その人のことで頭がぎゅうぎゅう詰めになって、何も考えられない。
それが恋ってもんである。
ヴァニラもそれを生まれて初めて体験した。
張り裂けそうな胸の痛み、ほてった身体、いつものより高い心拍数。
はじめは何かの病気かと思い、医学書を片っ端から読みかじった。
ほとんどの病気の症状や治療法は熟知していたつもりだが、未熟者の自分はまだ知らないことがあると思ったらしい。
しかし、端から端まで読んでもそんな病気など載っていなかった。
当然だ。「恋の病」なるものが医学書に載っているわけがない。
ヴァニラはこの治療薬のない病について、ケーラに相談することにした。
消毒液の匂いとコーヒーの香りが混ざった医務室。
頭の痛みを訴えて来た者が立ち去り、部屋の中はケーラとヴァニラだけになった。
「で、何か悩みでもあるんでしょ、ヴァニラ?」
これから聞こうと思っていたことを先に言われ、ヴァニラはびっくりした。
「何故わかったのです、ケーラ先生」
「わかるわよ、ヴァニラの様子を見てれば。それよりも何に悩んでいるの? 私でよければ相談にのるわ」
ケーラが優しく微笑みかける。
「実は…」
いざ言うとなると少し恥ずかしい。できれば隠しておきたい心の部分だからだ。
なにか更衣室を覗かれているような、そんな気分になった。
「男の人を好きになってしまったのです…。そのためか、最近胸が苦しくて…」
ケーラの微笑みに、わずかに冷やかしが混ざった。
「へぇ〜、ヴァニラが恋ねぇ。お年ごろだもんね」
興味津々、というようにケーラは身を乗り出す。
「それで、誰を好きになっちゃったの?」
ヴァニラはうつむいた。見せてはいけない所を見せようとしている気がした。
「あの、それが…、タクトさんなんです…」
心臓が燃えるように熱かった。
「ふ〜ん、マイヤーズ司令官ねぇ。裏表もないし、悪い人ではないわよね」
「はい、優しくてとても良い方です」
ケーラは少し沈黙をつくったあと、ヴァニラの肩に手を乗せ「告白しちゃいなさい」と言った。
「えっ、それは…」
できません、ヴァニラは震える眼で訴えた。
「大丈夫よ。私から見たら司令官もあなたに、好意を持っているように思えるわ」
「…それは、上司と部下としての…」
「ヴァニラみたいなかわいい子、振る男なんていないって」
「私は、未熟者です…」
「何言っているのよ。あなたならできるわ」
「私には…、無理です…」
「んもう、臆病ね。胸に溜まっている想いを吐き出さないと、モヤモヤは消えないわよ」
ケーラは地団駄を踏みながら一喝した。
黒い煙のようなものが渦まく胸の中。それは燃える心臓から出る湯気みたいなものじゃないかと、ヴァニラは思った。
この煙に霞んで見える真実は一体なんだろう。それは煙を消さないかぎり見えてこない。
ヴァニラは白く小さな手を力強く握った。
「ケーラ先生、私やります」
十分ほど経つだろうか。ヴァニラは司令官室の前でずっと立ちすくんでいた。
宇宙の万華鏡、そんな宇宙神話があったことをヴァニラは思い出していた。
この世界を創った神様の苦悩の話。世界を創ってみたのはいいものの、もしかしたら自分はとんでもない過ちを犯してしまったのではないかと、神は悩んだ。
気まぐれで災害を降りそそぐ壮大な自然。自分が生き残るために殺し合いをする動物たち。
そんな世界に繰り返される哀しみや憎しみを考えると、神は恐ろしくなった。神はその恐怖から逃れるため自ら暗闇を創り、そこに隠居した。
自分が創り出した悲劇から目を背けたのだ。
しばらく経って、世界がどうなっているのか気になり始めた。しかしそこに流れた血と涙の川を想像しただけで、身震いしてしまう。
勇気をだして覗いた神が見た世界は、意外なものだった。
自然と動物たちが助け合い、励まし合い、共存している。美しい世界だった。
まるで万華鏡を覗いているようだと、神は思ったのだ。
自分が思っているほど未来というのは残酷ではない。この神話はそう教えてくれる。
ヴァニラは大きく息を吸い込んだ。
この一歩を踏み出そう。万華鏡を覗きに行くために。
「タクトさん、お話があるのですが、入ってもよろしいでしょうか?」
ヴァニラの頼りない声は、かろうじて扉を貫通した。
「おお、ヴァニラか。入っていいよ」
タクトの声が聞こえる。
ヴァニラは思い通りに動かない両脚に、力を込めた。万華鏡のきらびやかな景色を扉の向こうに描く。
今まで踏み出せずにいたはじめの一歩を、踏み出した。
「なんだい、話って?」
タクトはいつもの笑顔で聞いた。
「あの、実は私…」
言葉が出てこなかった。別に難しい言葉を使いたいわけじゃない。
漢字が思い出せない歯痒い気分とは、少し違っていた。
何か喉の奥で、言葉が行き先を見失ったように佇んでいる。
「どうしたの?」
タクトが言う。タクトの台詞は空気の振動となり、ヴァニラを揺らす。
「タクトさんのことが、その…、好きなんです…」
ありふれた言葉だった。だけどそれでよかった。
伝えたいことが、伝えられたから。
「あは、こりゃ驚いたな」
タクトは照れくさそうに頬を掻いた。
「俺も、君に言おうと思ってたんだ。その台詞」
ヴァニラははげしく揺れた。
タクトの声は、まるで砂崩しで遊ぶ少年の手のようだった。
溶けていくような足元を、ヴァニラは必死で支えた。
「あの、それでは…」
「ああ、俺も好きだよ。ヴァニラ」
胸の霧が晴れていく。そこに見えたのはキラキラ輝く、万華鏡だった。
「よかった…」
ヴァニラは安堵の表情で笑った。
「私、タクトさんのこといろいろ知りたいのです。ずっとそばにいてよろしいですか?」
「もちろんいいさ。俺も、ヴァニラのそばにいたい」
幸せな時間が流れていく。いつもの単調な流れとは少し違っていた。
こんな時でも、時計は今までどおりの速度で時を刻むのだろうか。無感動な秒針が滑稽に思えた。
「ヴァニラ、さっき俺のこといろいろ知りたいって言ったね?」
「はい、言いました」
「それじゃあ、教えてあげるよ」
タクトはいつもの優しい笑顔でこう言った。
「まずは、マスターベーションのやり方だな」
「えっ?」
「俺のこと知るには、まずここから始めなきゃ」
タクトはそう言うと、押入れから一本の縄を持ってきた。
「あの、私が言ったのはそういう意味ではなく…」
「いいから、いいから」
タクトは笑顔を崩さず、慣れた手つきでヴァニラを縛った。
そしてそのまま柱にくくりつけ、身動きを取れなくした。
「こんな宇宙ハムみたいな格好をさせて、何をする気ですか?」
ヴァニラは、恐怖と憎悪と好奇心の混ざった表情で言った。
「宇宙ハムかぁ。なかなか面白い表現だね、ヴァニラ」
タクトは笑いながら、薄茶色の液体の入った器とハサミを持ってきた。
「危ないから動かないでね」と言って、ハサミでヴァニラの服を切った。ちょうど股間の部分である。
ほんの少しだけ毛の生えたヴァギナが顔を出した。
「や、やめてください、タクトさん…」
「心配いらないよ。新しい服、あとで買ってあげるから」
「だからそういう意味ではなくて…」
タクトはヴァニラの声など聞こえていない素振りで、刷毛に謎の液体を浸らせた。
「なぜ、こんなことするのですか?」
「君が頼んだことじゃないか。知りたいんだろ? 俺のこと」
タクトは液体の染みこんだ刷毛で、ヴァニラの股間をなぞった。
「はあん」と、ヴァニラはあまり感じたことのない感覚に悶えた。
「…その液体は、なんですか?」
「これかい? これは宇宙うるしの樹液さ。塗るととっても痒くなるんだ」
タクトの笑顔はまだ崩れていない。
「私が知りたかったのはそんなタクトさんじゃない! もう離してください」
ヴァニラは泣きながら懇願した。
いつも優しいタクトさん。そのイメージが崩壊した。目の前にいるのは人の神経を離脱した、狂った性癖を持つ変態だった。
「ヴァニラ、俺は真剣なんだ。今君にしていることはすごく気持ちのいいことなんだ。この快感をわかってほしい」
「わからない、わかりたくない!」
ヴァニラは唯一動かせる首を、はげしく振った。
「これだけは確かなことなんだ。俺は君を絶対に不幸にはしない」
こんなことしておいて何てこと言うんだ、とヴァニラは思った。しかしタクトの真っ直ぐな眼は、ふざけているように見えなかった。
股間がむず痒くなってきた。だが掻こうにも両手を縛られているこの状況では、文字通り手も足も出ない。
「…縄をほどいてください。うるしの痒みくらい、自分で治療できます」
タクトは首を横に振る。
「それは、まだできない」
いつも冷静で温厚な彼女だが、今回は違った。怒りで頬を震わせ、泣き叫び、じたばたした。
「お願い、もう離して! 痒くて、どうにかなってしまいそう…」
ヴァニラを抱きしめる縄がミシミシ唸った。
股間に毛虫が百匹くらい迷い込んだような、そんな痒さがヴァニラを襲った。
「痒い! 痒い! 痒いぃぃぃ」
うるしの樹液を吸い込んだ股間が、赤く腫れはじめた。
「そろそろ、頃合いかな」
タクトはヴァニラを縄から離してやった。
自由の身になったヴァニラは、無我夢中で股間を掻いた。皮膚がめくれ、血が流れてきてもヴァニラは掻き続けた。気が狂ったように、力を込めて掻いた。
「あっ、はあん、あぁ…」
掻けば掻くほど、不思議な気分になってくる。意識だけが別の世界に迷い込んでしまったようだ。
理性が剥がされていく。怖い夢から目覚めたみたいに。
だんだん、気持ちがよくなってきた。
…何か見える。あれは、万華鏡?
「ヴァニラ、わかってくれたかい?」
タクトが囁きかけた。優しく頬を撫でながら。
「はい、わかった気がします。…こういうことだったのですね」
マスターベーションがこれほど気持ちいいものだったとは。
タクトが必死に伝えようとしたのも無理はない。
「俺のペニスを見るかい?」
ヴァニラは頷いた。
タクトのペニスは掻き毟った跡が残っており、赤黒くただれていた。
むかし何かの本で見た、ガン細胞みたいだった。
「素敵な…、ペニスですね」ヴァニラは素直に褒めた。
「ああ。このふたつの生殖器は、愛の証だ」
ヴァニラは赤黒いペニスと血まみれのヴァギナを、交互に見比べた。
二人だけの秘密を持ったみたいでうれしくなった。
「…あの、またお願いしますね」
ヴァニラが恥ずかしそうに言った。
「もちろん」タクトは股間から流れる鮮血を、脱脂綿で拭きながら言った。
「いつでもおいで」
にっこりと、タクトは微笑んだ。ヴァニラもうれしそうに微笑んだ。
タクトの笑顔は、やっぱり優しかった。



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