馬鹿話

「……おいタクト」
 すー……すー……
ブリッジに安らかな寝息が響く。
お気楽司令官、タクト・マイヤーズは大胆にもブリッジで昼寝をしていた。
「ん……ランファ、扉は壊しちゃだめだって何度言えば……むにゃむにゃ」

 ぴくっ

「フォルテ〜だめだってば、艦内で銃を乱射しちゃ……すぴー」
 
 ぴくぴくっ

タクトがたわけた寝言を言うたびにレスターの怒りマークは増えていく。その数、すでに十を越えていた。
「や、やばいよ。副司令、頭の血管切れちゃうんじゃないの?」
「副司令が脳溢血で逝くか、切れた副司令に司令が殺されるか……」
ココとアルモの二人がひそひそ話している声が聞こえるのか聞こえないのか、タクトは幸せそうだった。
「あはは、ミルフィーの作る料理は最高だよ……くかー」
タクトはいったいどんな夢を見ているのやら。しかし、そんなことはレスターには関係なかった。
そう、彼の手にはいつの間にか鉄パイプなるものが握られていたのだ。
「……コロス」
どんな殺人鬼でもはだしで逃げ出しそうな殺気にもきづかず、にやけた顔で眠るタクト。
それに反してレスターの目からはすでに感情までもが消え失せていた。
「……やばいよ、司令死んじゃうよ?」
とめなきゃ、といった目つきでココはアルモを見る。
「切れた副司令もかっこいいかも……」
「……だめだこりゃ」
ココは改めてタクトを見ると、胸の前で十字を切った。
「マイヤーズ司令、私ではクールダラス副司令は止められません。せめて安らかに眠ってください」
オペレーターにまで見捨てられた司令官、タクト。まあこんな勤務態度じゃしょうがないといえばしょうがないのだけど。
「死ね! 俺の未来のために!!」
 
 ぶちっ! ……ぶしゅー……ばたっ!

誰もがタクトの死を予想した次の瞬間、鉄パイプを振りかぶったレスターが血を吹いて倒れてしまった。
「キャー!! 副司令の血管が切れた!!」
噴水のように血を吐き出して痙攣するレスター。それに引き換えどうやらタクトはレスターの倒れる音で目を覚ましたようだ。
「ふあー、よく寝た。あれ、どうしたの二人とも?」
あわてる二人を見てもあくまでのんきなタクト。足元に倒れているレスターには気づかないらしい。ひどいやつである。
「し、司令! 副司令が!!」
「司令のせいですよ! はやくケーラ先生のところに!!」
二人に言われてようやく死にかけのレスターに気づいたタクト。すでにあたりは血の海である。
とりあえずココが止血をしたおかげでこれ以上の出血はなさそうだが、すでにレスターは干物になりかかっていた。
「お、おい! どうしたんだよレスター、頑丈なだけがとりえのお前がこんなになるなんて!!」
さりげなくひどいことを言うタクト。
「レスターしっかりするんだ!、お前が死んだら誰がブリッジを守るんだよ!!」
普通ブリッジを守るのは司令官なのだが……。
「今ケーラ先生のところに連れてくからな!!」
タクトは真っ青になったレスターをおぶると、わき目も振らず医務室へと駆け出した。
タクトが走る衝撃でレスターは意識を取り戻したのか、腕がかすかに動いた。
「レスター、大丈夫か?」
それに気づいたタクトがレスターに問いかけるが、答えは返ってこない。
「……お前のせいだ」
その代わりに地獄の底から響いてきそうな声がレスターの口から絞り出された。
それと同時に、力なく下げられていたレスターの両腕がタクトの首に絡みつく。
「ちょ、ちょっとレスター……それは冗談になってないんじゃ……」
「……死より、深い闇を」
「それはキャラが違う! つーかマジで洒落になんないって!」
タクトの必死の哀願が聞こえているのかいないのか、つーか聞こえてても離さないだろうな……。
そんなわけで、タクトはぎりぎりと首を絞められてそろそろ限界なのであった。
「誰か……助け……」
 
 ばたっ

タクトの意識はそこで途切れた。
「ふ……ざまーみろ……」
レスターの意識もそこでぷっつりと途切れた。傍から見ると誤解を招きそうな格好と言うか、姿勢でと言うかで倒れている二人。
なおかつタイミングのいいことにそこにもっとも誤解しやすそうな人が現れた。
「あれ、タクトじゃない。ってうそ、クールダラス副司令まで、まさか二人ってそういう関係だったの!?」
しっかりしているがどこか抜けているエンジェル隊の一人、ランファ・フランボワーズである。
もちろん意識がぶっ飛んでる二人に返事ができるわけもない。
無言の肯定と受け取ったランファは、キャー、と黄色い声を上げると。
「これはぜひともみんなに知らせないと!!」
と言って、死にかけの二人を放置してどっかへと走り去っていってしまった。
 
 どたどたどたどた!

しばらくすると、複数の足音が彼等の元へ駆け寄ってきた。
暇をもてあましていたエンジェル隊、とりあえず非番だった者、さらにはシヴァ女皇と侍女さんまでいた。
「いやー、お前さんたちはそういう仲だったのかい」
心底驚いた、と言う表情のフォルテ。
「こんな時間からこんな場所で、お熱いですわね、お二人とも」
妙にうれしそうなミント。
「……神も、お二人を祝福しています」
なぜか十字架を持っているヴァニラ。
「私、特大のケーキを作ってお祝いしちゃいます!」
どっか間違ってるミルフィーユ。
「なるほど、道理で息がぴったりだったわけですね」
真逆に勘違いしているちとせ。
「……ちょっと待て皆の者。様子がおかしいぞ」
倒れてから今まで、誰一人として気づかなかった彼等の異変にようやく気づいたシヴァ女皇は、
とりあえず二人を引っぺがして様子を見ようとした。
ごろん、とひっくり返される二人。そのあまりの様子に、集まった全員がそれはもう飛び上がらんばかりに驚いた。
「ちょっと、どっちも白目向いてるよ!」
「レスターさんは干からびてますわね」
「タクトさん息してませーん!」
今までのお馬鹿ムードから一転、あわて始めるエンジェル隊と他大勢。
そこに、ブリッジからの連絡を受けたが一向に二人が来ないので様子を見に来たケーラ先生が現れた。
「ケーラ先生! タクトさんとレスターさんが……」
「はいはい、わかってるわよ。まさか二人とも瀕死になってるとは思わなかったけどね」
どこからか医療キットを取り出すと、てきぱきと二人を診ていくケーラ先生。
彼女の登場により、ようやく安堵の雰囲気が場を包んだ。
「なんとか大丈夫そうだねぇ」
「そういえば、ヴァニラさんがナノマシンで治療して差し上げればよかったのでは……」
「……忘れてました……」
「お二人が助かってよかったですー」
「始めからそう言ってくれればケーラ先生呼んできたのに……」
「ランファ先輩、過ぎたことを言ってもしょうがありませんよ」
ようやくみんなが普段に戻り始めたとき、タクトとレスターが意識を取り戻した。
「っつ……あれ、俺は? 確かレスターに首を絞められて殺されたような……」
「何がどうなって……タクトの馬鹿を鉄パイプで殺そうと思ったとこまでは覚えているんだが……」
なんだかんだでこの二人、やっぱり息が合っているのだろう(?)
中で起こったくだらない事件とはまったく関係なく、エルシオールはいつもどおり航行していた。
ある、平和な一日の出来事であった。



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