タクト×ミント

外の明かりも徐々に消えつつある午後十一時半、タクト・マイヤーズは自室で書類の山と格闘していた。
「あーあ、今までだったらレスターのやつに押し付けられたのに……あのワーカホリックめ」
文句をたれながら書類に目を通していくタクト。
「何で有給中にこんなことしなきゃなんないんだよ……」
ヴァル・ファスクとの戦いの後で壊滅状態だった軍を再編する作業に追われているようである。
うわさのレスターは有給も途中で切り上げて職場に復帰し、そのまま宇宙のどっかへ飛んでしまった。
ちなみに、その知らせを聞いてアルモがキレたのはまた別の話。
「ハァ……こんなんじゃいつまでたっても終わんないよ。締め切り明日の昼なのになぁ」
昼飯を食べた後、ぶっ続けでデスクワークをこなしていたが、まだまだ半日では終わらないくらいの量は残っていた。
「腹も減ったしなぁ」
集中しているときは案外気がつかないが、そのぶん緊張が切れたときにはどかっと感じるものである。
もう少しやって日付が変わったら夜食でも食べに行こう、そう考えて再び書類に目を落としたとき。

 コンコン……

「あれ、こんな時間に誰だろ」
なんというか、絶妙のタイミングで部屋の扉がノックされた。
「タクトさん、私です。ちょっとよろしいですか?」
そして扉の向こう側から控えめなミント・ブラマンシュの声が聞こえてきた。
「ああ、ミントか。いいよ、入ってきて。鍵は開いてるよ」
「失礼しますね、タクトさん」
扉の開く音とともに、ミントが部屋の中に入ってくる。
「どうしたの? こんな時間に……って、ミント! なんだよその格好!?」
書類から目を上げたタクトは、ミントの服装に飛び上がらんばかりに驚いた。
「あら、お気に召しませんか?」
メイドの格好をしたミントは、差し入れですわ、といたずらっぽく笑ってタクトに紅茶とサンドイッチの乗ったトレイを渡す。
「い、いや……すっごくうれしいんだけど……」
突然のことで、嬉しいというよりは混乱している、と言いかけてあわてて飲み込むタクト。
「似合っていませんか?」
くるりと回って自分の姿を確かめてみるミント。
ふわりと広がったスカートにタクトはついつい目を奪われてしまう。
「……」
(激萌えだなぁ……)
「タクトさん?」
「あ、ああゴメン。ミントが可愛すぎて少しぼーっとしてたみたいだ」
そう言ってタクトはトレイに乗っていたサンドイッチを手にとってかぶりつく。
どうやらミントの手作りのようで、しゃきしゃきしたレタスの感触が心地いい。
「ふふ、相変わらずお上手ですわね」
そう言いながらもまんざらではなさそうで、嬉しそうにタクトの食べっぷりを眺めるミント。
「むぐむぐ……うん、すごく美味しいよ。ちょうど腹が減ったなーって思ってたとこだったんだ。ありがとう、ミント」
あっという間にサンドイッチを平らげたタクトは湯気の立つカップに手を伸ばす。
「ああ、タクトさん。紅茶はまだ熱いですから……」
ミントはタクトより早くカップを手に取ると、何をするつもりなのかそのまま口元へとカップを運ぶ。
そして冷ますのかと思いきや、そのまま湯気の立つ紅茶をためらいもなく口に含んでしまった。
「?」
ミントの行動がいまいち理解できていないタクト。
ミントは結構な量の紅茶を口に収めたまま、タクトに向かって笑みを浮かべると、そのまま抱きついて唇を重ねてきた。
「!? ん、んんー!!」

 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……

ミントは口移しで全てタクトに飲ませると、顔を離して満足げに微笑む。
「いかがでしたか、タクトさん。口移しのお味は?」
「ああ……すごく美味しかったよ……」
突然抱きついてきたやわらかいミントの肢体と、紅茶を吸って熱くなったミントの唇とで惚けていたタクトは、
熱に浮かされたかのようにミントに対して答えていた。
(なんか、ミントすごく艶っぽいな……)
少し潤んでいるように見えるミントの目に吸い込まれていきそうな錯覚を覚える。
そのせいなのか、タクトはミントが手を背中に回してごそごそやっているのに気づかなかった。
「ミント……俺」

 カチャッ

「え?」
場の雰囲気にそぐわない無機質な金属音が、タクトの背後からした。
慌てて手を動かそうとするが、がちゃがちゃと音が鳴るだけで一向に背後から腕が出てこない。
頭が手錠をかけられたと理解したときには、すでにミントの顔がタクトのすぐ目の前にあった。
「あ、あのー……ミント……さん」
「タクトさん」
タクトの発言を遮り、ぐぐっとのしかかってくるミント。
ミントがタクトを押し倒したような体勢になる。
「今日、何の日だかご存知ですか?」
「き、今日? えーっと……」
有無を言わせぬ強い口調にタクトは必死に今日が何の日だったか思い出そうとする。
(今日は……ミントの誕生日じゃないし、祝日でもないし……ルフト先生の誕生日とか? そんなわけないよな……)
「タクトさん?」
必死に頭の中をかき回してみたが、何もわからないままタイムオーバーを迎えてしまった。
「……ごめん、わからない」
若干の沈黙の後、ミントはタクトから少し離れるとさも残念そうにため息をひとつついた。
「今日は、タクトさんの誕生日ですわ。何でご自身のことなのにお忘れになってるんですの」
(誕生日……俺の? そういえば……)
「……思い出した」
責めるようなミントの目と口調でタクトはようやく一週間前のことを思い出していた。
あれは、タクトが仕事を押し付けられる二日前の出来事。
家の近所の公園で昼寝をしていたタクトのところにミントがやってきたとこから始まった。
「タクトさん、もうすぐ誕生日ですわね」
「んーそういえばそうだね。ここんとこずーっと似たような毎日だったからすっかり忘れてたよ」
よっこいしょ、と体を起こすタクト。
「お休みの最中ですからね、取って置きのプレゼントを準備して待ってますわ」
だから必ず私の部屋に遊びに来てくださいましね、そう言ってミントは去っていった。
その二日後、たまたまルフト将軍と話をしていたときにうっかり、
「今ほんとにやることがなくて暇なんですよね、こんな時間がずーっと続いてほしいですよ」
などと口を滑らせてしまったがために、一日の八割を費やし続けてもまだ終わらない地獄のような仕事を押し付けられてしまったのだった。
「休んで英気を養っているならともかく、体を完全に鈍らせているようならば仕事のひとつでも押し付けてやろうかの」
どうやら本気で言ってるルフト将軍を見てタクトは冷や汗をかきながらも、ささやかな抵抗をしてみる。
「せ、先生、今は有給休暇中なんじゃ……」
「レスターのやつはすでに働き始めておるじゃないか」
取り付く島もない、といった感じである。
「あいつはおかしいんですよー!!」
「おぬしに言われたらレスターがかわいそうじゃ。では、頑張ってくれよタクト」
そして過労死するんじゃないか、と思われるような仕事のためミントとの約束をすっかり忘れてしまったのである。


「ごめん……ミント、ホントにごめん」
「はぁ、やっと思い出してくれたんですわね」
タクトは激しい後悔に襲われていた。あのときミントは、取って置きのプレゼントを用意してくれていると言っていた。
それなのに自分は仕事なんかのためにそれを無駄にしてしまったのだ、と。
「それで、何で私はここに来たんだと思いますの?」
離れていた顔がずいっと迫ってくる。思わぬ迫力にタクトはつい目をそらしてしまった。
「そ、それは……」
「わかりませんか?」
ミントはタクトの顔を両手で正面に持ってくると、その瞳を覗き込んで尋ねる。
「……ごめん」
ミントに何を言われても耐えて謝るしかない、とタクトは覚悟を決める。
「私は別にタクトさんを責めに来たんじゃありませんわ。プレゼントを渡しに来たんですのよ」
「……え?」
ミントはいったん言葉を切ると、タクトに意味ありげに微笑みかける。
「タクトさん、体の調子が少しおかしくありませんか?」
「……」
確かにミントの言うとおり、タクトの体は風邪でも引いたかのように熱くなっている。
特に、体のある一部分―――タクトの怒張―――なんかは壊れてしまったんじゃないか、と思えるくらい異常に膨れ上がってしまっていた。
「さっきのサンドイッチと紅茶には即効性の媚薬が仕込んでありましたのよ」
ミントは本当にさもおかしそうに笑う。
タクトにはそれがとても怖く思えた。
「ど、どうしてそんなことを……」
「さっき言ったとおり、プレゼントを渡すためですわ」
そう言ってミントは両手を後ろで固められているため、椅子から動けないタクトの股間をズボンの上からやさしく撫でる。
触れるか触れないかの微妙な刺激、それだけなのにタクトの体をしびれる様な快感が突き抜ける。
「うっ……ああっ」
「ふふっ、気持ちいいですか? タクトさん」
ミントは顔を近づけると、タクトの耳にふーっと息を吹きかけ、そのまま耳内を舌で丹念に嘗め回す。
「うああっ!」
音を通じて脳を直接犯されているような錯覚に陥るタクト。
股間を刺激されるのとはまた違った快感の波におぼれていく。
耳内を愛撫している間も股間を弄る手は休めないミント、すでにタクトのズボンには染みが広がり始めている。
「ミント……」
ひとしきり耳を蹂躙し終えると、そのままミントはタクトに顔を寄せ、口付けを交わす。
「ん、んんっ……はあっ、あくっ……」
激しさはないが、その分ねっとりと舌の絡み合う濃厚なディープキス。
その間にもミントの手は休むことを知らずに、タクトの服をはだけさせていた。
ミントの舌はそのままあごを伝って、首筋から鎖骨、そしてタクトの胸板へ唾液の跡を残していく。
「あ……ああ……」
じれったいほどゆっくりなその動きをタクトは期待と不安の混じった表情で見つめていた。
しかし、ミントは乳首の周りを舐めるだけでなかなか直接刺激しようとはしない。
(ど、どうして……)
「ふふ、どうしてほしいのかきちんと言ってくださらないとわかりませんわ」
「そ、そんな……」
タクトは忘れていた。ミントはテレパシーを使えるということを。
つまり、わかっていながらあえてタクトの口から直接言わせようとしているのだと。
普段のタクトならまだ読まれても平静を装えたのかもしれないが、今のタクトにそんな余裕があるはずもない。
そう理解したとき、タクトの中で理性が本能を押さえつけられていたのは一瞬だった。
「俺の……を……くれ」
「なんですの? 聞こえませんわよ」
「俺の、ち……を、い……くれ」
「もっと大きく言ってくださらないと……」
そう言ってミントはタクトの乳首を軽く爪で弾く。その瞬間の痺れるような快感は、最後の理性を突き崩すのには十分すぎた。
「俺の乳首を、もっといじってくれぇえっ!!」
「ふふ、よく言えました。ご褒美ですわ」
そして、ミントの舌がタクトの既に勃起していた乳首へと到達する。

 ピチャ……

「ああっ!?」
その瞬間、全身を突き抜けた衝撃に体を大きく震わせるタクト。
ミントが刺激を与えるたびに、びくんびくんと体が揺れる。
「……ここ、気持ちいいんですね。タクトさん」
その言葉とともに、今まで軽く舐めたりする程度だったミントの口がタクトの乳首を思い切り吸い上げた。
それと同時に空いている手でもう片一方の乳首を思い切りひねり上げる。
「ひっああああっ!!!」

 ビクビクッ!!

突然襲った今まで以上の強烈な刺激に、タクトは全身を強く痙攣させ、そのままぐったりしてしまった。
「くすくす……女性のような喘ぎ声でしたわね、可愛らしかったですわよ」
ミントがふとズボンを見ると、テントを張ったところから徐々に染みが大きくなっていく。
「あら、タクトさん……イッちゃったんですの?」
(少し薬が強すぎたかしら……まあいいですわ)
タクトは自分の情けなさに声も出ない。
「ふふ、メイドさんにいじめられるのはどんな気分ですか? 
以前タクトさんが一人で慰めてらしたときの映像と同じようにしてるつもりですけど」
「な、何でそんなことまで知って……」
(だからメイド服だったのか……)
「ふふ、タクトさんのことなら何でも知っていますわ。実はマゾの気があることなんかも……」
タクトの質問に直接は答えず、ミントはそのままタクトのズボンに手を掛けるとパンツごと一気に引き摺り下ろした。
精液にまみれながらも、全く硬度を失っていない肉棒があらわになる。
「さあ、次は私も気持ちよくしてくださいね」
ミントはショーツをずらすと、すでに濡れきった秘裂をタクトの先端にあてがい、一気に腰を落とした。
「ぐああっ!」
「ああんっ、いつもより大きいですわね……私にいじめられて興奮したんですの?」
ミントはタクトの反応を確かめると、満足そうに一度うなずいてそれから突然自分勝手に腰を動かし始めた。
自分だけが気持ちよければいい、といった滅茶苦茶な動き。
「あ、ああっ、すごいですわっ!」
椅子に固定されてろくに動けないタクトは、ただただミントの動きに翻弄されるだけである。
しかし、薬のせいなのかすぐにまた射精感がこみ上げてきていた。
「ミ、ミント、ちょっとゆっくり……」
「駄目ですわ」
ミントはタクトの哀願を一蹴すると、服の中からベルトを取り出した。
「が、我慢するから。それだけは……」
タクトの必死の願いもどこ吹く風、ミントは思いっきりタクトの根元を縛り上げる。
タクトが、千切れるんじゃないか、と本気で心配になるくらいに強く。
「ぐあああっ!!」
「さあ、これで射精できませんわ。私がイクまで、がんばってくださいね」
ミントは小悪魔的な笑みを浮かべると、今まで以上に激しく腰を動かし始める。
「ひあっ、ああっ! さっきより、さらに、大きくなって……」
「お、お願いミント、イカせて、射精させてくれぇ!」
痙攣を繰り返すだけで最後の一歩が全く訪れないタクトはひたすら耐えるしかない。
そんなタクトの様子を見ると、ミントは不意に腰の動きを止めるてタクトに冷静な声で話しかけた。
「そんなにイカせてほしいのでしたら、私のお願いを聞いてくださいますか?」
「な、何でも……聞くからっ、だから……」
縛られている激痛と、それ以上の快楽に完全に呑まれているタクトは、ただミントの言うことを聞くしかなかった。
「明日の一日、私に付き合ってほしいんですの」
「……ミント?」
今までの高圧的な口調から一転、懇願するような響きをミントの声から聞き取ったタクトは思わず上にのしかかっているミントの顔を見る。
すると、ミントの瞳から一筋の涙がこぼれているのが目に飛び込んできた。
「私……今日を、ずっと楽しみにしてましたのに……タクトさんがいらしてくれなくて……ホントに、本当に……」
そこから先は声にすらならず、ただミントはしゃくりあげるだけである。
そこまで言われてタクトはようやく今日一日ずっと一人で待っていたミントの悲しみに思い至った。
部屋に入ってきたときはそれほど落ち込んでいるようには見えなかったが、やはり必死に隠していたのである。
「わかった。明日一日なんていわずに、残りの休みは全部ミントと一緒に過ごすよ」
縛られてる痛みも、気が触れそうな快感もなんのその、タクトは必死に平静を装ってミントにやさしく語りかける。
「タクトさん……ありがとうございます」
しゃくりあげていたミントは顔を上げると、涙を拭きながらタクトに向かって微笑んだ。
「そ、そんなの当然だろ。だからさ、ミント……その……」
「ふふ、わかってますわ」
ミントはタクトの手錠をはずすと、そのまま唇を重ねてきた。
タクトも自由になった両手でミントを抱きしめると、キスをしたまま腰を動かし始める。
「ああっ、タクトさん……私、もうすぐっ!」
「お、俺も……もう、限界だ……」
縛られっぱなしだったタクトのものは既に感覚がなくなり始めていた。
気持ちいいのか、痛いのか、それすらもわからずにタクトはただひたすら腰を突き上げる。
「タクトさんっ! 一緒に……!」
ミントは快感に飲み込まれてほとんど言うことを聞かない体に鞭打って、タクトのペニスに巻きつけてあったベルトを一気に引き抜いた。
「ううっ、あああぁぁっ!!」
「イッちゃううぅぅっ!」

 ビクンッ! ビクンッ!

二人の体が同時に大きく震えた。
タクトのものはミントの奥にありったけの精をはこうと痙攣を繰り返し、
ミントの膣は最後の一滴まで絞り取ろうと断続的に収縮を繰り返す。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
タクトは絶頂を迎えてぐったりともたれかかってきたミントをやさしく抱きとめた。
そのとき、ふと机の上におきっ放しだった紅茶のカップを発見した。中身はまだ半分近く残っている。
先ほどのミントの言葉が頭によみがえる。
―――さっきのサンドイッチと紅茶には即効性の媚薬が仕込んでありましたのよ―――
タクトはミントに気づかれないようにカップに手を伸ばし、ぬるくなった紅茶を飲む。
一口飲み干すと、もう一度口に紅茶を含ませ、タクトの胸で荒い息を吐いているミントの肩を叩く。
「タクトさん? どうしたんですの」
そう言ってミントが顔を上げた瞬間、さっきとは逆にタクトが口移しで紅茶を飲ませる。
「ん!? んんんっ……」
ごくごくと、ミントの喉が動いたのを確認したうえでタクトは口を離す。
「プハッ……な、なんてことをなさるんですか!」
タクトは無言で机においてあった時計を指差す。その表示は、零時七分となっていた。
「さっき言っただろ、明日―――つまり今日―――は一日ミントと過ごすって」
言うが早いが、タクトはミントを抱きかかえるとそのままベッドに向かって歩き出した。
「タ、タクトさん! わ、私はもう……」
拒否しようとするミントに口付けし、言葉をさえぎる。
しばらくしてミントがおとなしくなると、タクトは唇を離して告げた。
「昨日傷つけちゃった分、俺はもっともっとミントを愛したいんだ」
もう媚薬入り紅茶飲んじまったしな、と心の中で付け加えるタクト。
あまりにも歯が浮きそうな台詞を言われて、言われたミントのほうが顔を真っ赤にしてしまう。
「よ、よくそんな恥ずかしい台詞を真顔で言えますわね……」
「だめかい?」
ミントはしばらく考えてるようであったが、やがてタクトの腕の中でゆっくりとうなずいた。
それを見届けたタクトは、ミントをやさしくベッドの上に横たえ、ゆっくりとのしかかっていく。
「さあ、今日一日はずっと一緒だよ、ミント」
二人がベッドの上で絡み合うのと、部屋の明かりがタクトによって消されたのは同時だった。


 ピピピピピピッ! ピピピピピピッ! ピピピピピピッ!

「……うるさいなぁ」
タクトはベッドで寝返りを打って耳障りな機械音から逃れようとする。

 ピピピピピピッ! ピピピピピピッ! ピピピピピピッ!

全くの無駄だったようで、タクトは寝ぼけたまま枕元においてあった通信機に手を伸ばした。
「ふぁい、こちらタクト・マイヤーズです……」
「タクト! 何をやっておるのだ、仕事はどうした仕事は!!」
半分寝ていたタクトはルフト将軍の大声で一気に現実に引き戻された。
「ル、ルフト先生!?」
そして慌ててタクトは時計を探す。
「……午後、二時?」
確か、締め切りは昼、つまり午前十二時である。
(……やっちまった、どうしよう)
「タクト!」
「す、すいません! 急ピッチで終わらせますんであと一時間待ってください!」
そう言ってルフト将軍の返事も待たずに通信を切ると、慌てて服を着て机に向かおうとした。
「あれ?」
しかし、改めて見ると机の上に昨日まではあった書類の山がなくなっている。
「…? おかしいな」
しかし何度目をこすっても書類の山はやっぱりなくなっている。
どうしようかと途方にくれていると、朝起きたときにいなくなっていたミントがやってきた。
昨日のようなメイド服ではなく、普通の私服である。
「タクトさん、どうしたんですの?」
「いや、仕事の続きをしようと思ったんだけどさ、書類がどっかいっちゃってて」
と、昨日の約束を思い出したのかタクトは慌ててつけ加える。
「あ、でも一時間で終わらすから! ミントはその辺でくつろいでていいからね?」
そう入ったものの、書類がなければ仕事のしようがない。
減給だよどうしよう、とタクトが心の中で頭を抱えていると、ミントはタクトに一枚のディスクを見せてこともなげに言った。
「ああ、仕事でしたら私が終わらせておきましたわよ」
「ほ、ホントか!?」
思わぬミントの言葉に見る見る顔が明るくなっていくタクト。
「ただ、渡すには条件がありますけど……昨日の約束、きちんと守ってくださいますか?」
「もちろん! 残りの休みは全部ミントと一緒に過ごすよ!」
「ふふ、ありがとうございますタクトさん。ではこれはお渡ししておきますわね」
ミントはタクトにディスクを手渡す。
タクトにはそれが神からの慈悲のように思えた。
「それじゃ早速それを将軍に転送してから遊びに行きましょう。あ、でもその前にちゃんとシャワーを浴びてくださいね?」
タクトは、自分に語りかけるミントの笑顔が何よりも眩しく感じていた。
有給休暇はあと一週間弱残っている。
休暇が終わればまたしばらくあえない日々が続くのは、タクトもミントもわかっていた。
(……そうだな、せっかくだから一年分以上の思い出になるくらい一緒に過ごそう)
タクトはそう決めると、ルフト将軍へと通信をつないだ。
自分の愛するものと、かけがえのないひと時を過ごすために。 
二人は、同時に微笑んだ。



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