ケーラとヴァニラとタクト

「困ったわね・・・」

ヴァニラが炒れてくれた、なぜかひどく「塩辛い」コーヒーを吹き出した後、ケーラは呟いた。




ヴァニラ・H(アッシュ)少尉は、エルシオールのクルーの中で13歳と最年少であるが、
同時に一番の働き者だ。本業は紋章機のパイロットだが、平時は医務室でケーラの助手と
して働いている。パイロットとしてはもちろん、看護婦としても、彼女はとても優秀だっ
た。

希少なナノマシーンの使い手である上に、献身的な看護で特に男性クルーの間ではケーラ
を差し置いて「白衣の女神」として崇められているほどだ。ファンクラブまでもが結成さ
れ、彼女のプライベートを写したの生写真は、会員の間で異常な高値で取引されていると
も聞く。

しかし、今日の彼女は「女神」と呼ぶにはあまりにもミスが多かった。

ロックしてあるドアに正面からぶつかって額にこぶを作ったり。あるいはヘッドギアをつ
けるのを忘れたまま出勤してきたり。はたまた病室に菊の花を飾ったり。

さらには「風邪をひいたようだ」と医務室にやってきたクルーにモルヒネ(!)を処方しよ
うとしたり、転んで膝を擦りむいたというクルーに対しては、傷口に原液のままのクレゾ
ールを塗って大騒ぎになったりもした。

そんな彼女のあまりの豹変ぶりに、最初ケーラはヴァニラが深刻な病気にでもかかったの
ではないかと疑ったが、いくら尋ねてもヴァニラは「問題ありません」と繰り返し、実際
に検査をしても肉体的には何も異常は無かった。またかつてのように、クーデター軍の送
り込んできたヒューマロイドとヴァニラがすりかわったのではないか、とも考えたが、こ
れもDNA鑑定の結果、ヴァニラ本人であることが確認された。

ヴァニラは、今はなんとか一日の仕事が終わり、診察用のベットにちょこんと腰掛けて、
時折「はぁ」とため息をついていたりする。そんなヴァニラを見ていて、ケーラはふと、
1つの「可能性」に思い至った。

(これは・・・ひょっとして『恋煩(わずら)い』ってヤツかしらね・・・)


考えてみれば、ヴァニラも今年で14になるのだ。多くのクルーには「感情が無い」とか
「無表情」などと思われているヴァニラだが、それは故意に感情を表に出さないようにし
ているだけで、実際には彼女にも豊かな感性がある事をケーラは知っている。年齢的にも、
異性に対して特別な感情を抱くのは、むしろ自然なことだ。

お相手は・・・タクト・マイヤーズ司令以外にはいないだろう。二人で仲良く宇宙ウサギ
の世話をしている所を何度か見ているし、しばしば自分でサンドイッチを作って司令官室
に運んでいるという話も聞いている。

(けれど・・・)

ケーラは思う。仮にヴァニラがタクトに恋をしていたとしても、彼は悪い人ではないし、
出所や家柄もしっかりしている。ルックスも副官のレスターのようないわゆる「二枚目」
ではないが、むしろそれが親近感を高めている。仕事振りやその成果を見ても将来性も確
かだから、少なくともヴァニラを悲しませる事は無いはずだ。

だが、同時にそれだけ「理想的な男性」であるからこそ、ヴァニラにとっての『恋敵(こ
いがたき)』も多い。

少なくともムーンエンジェル隊はメンバー全員がタクトに好意を持っているし、玉の輿
(こし)を狙う女性クルーも一人や二人ではない。彼女達はまさに「お年頃」であり、それ
ら「歴戦の猛者」を相手にするには、ヴァニラはあまりにも未熟で経験不足である。ケー
ラとしては、もちろんヴァニラに幸せになって欲しいとは思うのだが、残念ながら戦況の
見通しは暗い。

さりとて、このままではケーラの助手としての仕事ももちろん、紋章機のパイロットとし
ての仕事にも深刻な影響が出てしますう。タクトを諦めろ、と忠告するなどはもっての他
だ。

どうしたものか、とわずかに思案した後、ケーラはひとつの「作戦」を思いついた。




相変わらずため息をつくヴァニラに、ケーラは問い掛けた。

「ねぇヴァニラ・・・あなたマイヤーズ司令の事・・・好きなんでしょ?」

その言葉にビクリ、としてケーラの方を振り返るヴァニラ。口には出さないが、その表情
には『どうして分かったんですか!?』という疑問符がいっぱいに浮かんでいる。

(根が素直なだけに、分かりやすい子よねぇ・・・・)

ケーラは内心苦笑いしつつ、念を押す。

「好きなのね?」

ヴァニラは照れるようにケーラから視線を逸らし、そして小さく『こくり』と頷いた。

(よし、第一段階はOKね)

ヴァニラが「自分の気持ち」に気づいている事を確認したケーラは、「作戦」を進める。

「ならもっと積極的にならなくちゃダメよ。エンジェル隊に限らず、エルシオールには魅
力的な娘が多いんだから。何もしないままだと誰かに取られちゃうわよ?」

そんなケーラの言葉に、困ったようにヴァニラは答える。

「ですが・・・私、具体的にどうしたらいいのか分かりません・・・」

(まぁそうよねぇ・・・・)

ヴァニラは、おそらくこの世代の少女が「恋の手引書」にするであろう、少女漫画すら読
んでいないのでる。さらに世間話をするような同世代の友人もいない彼女が、男性に対す
るアプローチの術(すべ)を心得ているわけがない。だが、もちろんそんな事は当然予測済
みである。ケーラは予定通り作戦を本段階へと進めた。

「そうねぇ。とりあえず他の子になびきかけてる男の子を自分の方に引き寄せるのには、
『既成事実』を作っちゃうのが一番効果的なんだけど・・・」

「…既成…事実?」

思わせぶりなケーラの言葉に、きょとんとした顔で尋ね返すヴァニラ。

「そう。平たく言えば、『Hしちゃう』って事ね」

一瞬言葉の意味がわからず、相変わらず「きょとん」としていたヴァニラだが、やがてそ
れが意味する行為が理解できると、とたんに顔が赤くなり、そのまま固まってしまった。

(これまた100%予想通りの反応ねぇ・・・・)

再び苦笑いするケーラ。

ヴァニラには基本的な医学の心得があるから、「男女の性行為」についての知識も当然持
っている。ただ、それは「知識」であって、自分の身に起きる「現実」として意識したこ
となど無いのだろう。だからこそ、意識したとたん、その刺激で思考が停止してしまうの
だ。

ケーラとて、まだ13のヴァニラに、本気でタクトと肉体関係を持たせようとしているわ
けではない(そんな事になったらもはや犯罪である)。ただ、ヴァニラのライバルとなる
女性達は、当然自分の「女の部分」も重要な武器としてタクトに迫るだろう。タクトにヴ
ァニラを「女性」として気づかせて意識させるには、強引にでもヴァニラの中の「女性」
部分を引き出し、確実にタクトに気が付かせる必要がある。

しかし奥手で自己主張の弱いヴァニラに対して、日常の触れ合い程度の中にそれを求める
のは不可能である。それこそ「性行為」を意識して迫ってはじめて、普通の女性の普段程
度の「色気」が出る、とケーラは考えたのだ。



「よしっ、善は急げね! ヴァニラっ、私が貴方にもマイヤーズ指令をメロメロにできち
ゃう、マル秘テクニックを教えてあげるわ!」

ケーラはやや強引にヴァニラの手を取って、診察室の隣にある処置室に入り、そして内側
から鍵をかけた。

しかし、診察台の上で不安そうに小さく震え、潤んだ瞳でケーラを見上げるヴァニラの姿
を見た時、ケーラの脳裏に、ハイスクール時代に後輩の女子生徒達から「お姉さま♪」と
呼ばれ、十指に余る娘を「こまして」いた記憶が蘇った。

(…なっ、なんてカワイイのかしらっ、ヴァニラ!)

一瞬、このままヴァニラを自分の欲望の玩具にしてまおうかという欲望がケーラの脳裏を
駆け巡ったが、鉄の意思でそれを押さえつける。

(…だ、ダメよ! いけないいけない。私ったら何を考えてるのかしら…)

ケーラは頭を振って一瞬頭をよぎった黒い物を振り払った。そして当初の作戦通り、恋の
レクチャーを始める。

「ま、まず何より大切なのは、スキンシップよ。さりげなく…かつ大胆に…ね」

そういってケーラは、ヴァニラの隣に腰を下ろした。そして肩が触れ合う距離にまで寄り
添って、優しくヴァニラに手を重ねる。指が触れた瞬間、ヴァニラが肩をぴくり、とさせ
た。

「ふふ…手が触れただけで『ドキっ』としたでしょ? 今のヴァニラの『ドキっ』と同じ
かそれ以上に、マイヤーズ司令も『ドキッ』っとするはずよ♪」

その言葉に小さく肯くヴァニラ。

「でも手を触れただけじゃ、まだ足りないわ。もっと肩を寄せて、ほっぺたをマイヤーズ
司令の肩にあたるようにして…」

しだれかかるようにヴァニラによりかかるケーラ。その豊満で柔らかな乳房が、ヴァニラ
の腕に押し当てられる。その感触に、さらに硬直するヴァニラ。

「ふふふ…なんと言っても、女の最大の武器は胸よ。女の子に胸を押し付けられて興奮し
ない男の人なんていないわ。でもあからさまに『むにゅっ』押し付けちゃダメ。あくまで
さり気なく、女の子の方では胸を押し付けてるつもりなんてないと、男の人の方に意識さ
せるのが大切なの。」

「…で…ですが、私にはケーラ先生のように、大きい胸はありません…」

頬を紅潮させながら、しどろもどろに答えるヴァニラ。

「大丈夫。胸は大きければいい、ってもんじゃないわ。むしろ小ぶりな方が興奮する男の
人の方が多いのよ。特にヴァニラくらいの大きさだと、ひょっとしたら私の胸より効果的
かも…」

その言葉に、ヴァニラは自分の胸を見つめた。最近ようやく軍服の上からでも膨らみが確
認できる程度に成長してきたその膨らみは、しかし同性のヴァニラから見ても胸が高鳴る
ケーラの乳房と比べると、とても貧弱で心細く感じた。

「ほらほら。悩んでる暇なんてないわよ。まだ続きがあるんだから…体を寄せたら、目を
閉じて、愛しさを込めて相手の名前を呼ぶの。ヴァニラのお相手なら『タクトさん…』っ
て。それから……………」



ケーラの「講義」は、その後30分以上続いた。





「はぁ…」

無人となったエルシオールの廊下で立ち止まり、ヴァニラは今日何度目になるのか分から
ないため息をついた。

ケーラーの講義が終わった後、善は急げと医務室から追い出され、タクトの部屋に向かっ
ているのだが、足取りは重い。ヴァニラには、自分がタクトに対してケーラから教わった
ような「誘惑行為」ができるとはとても思えなかったから。

しかも、ヴァニラの頭からは、ケーラーの「講義」の内容の半分以上は消えていた。講義
の最後の方では何故か裸にされて、しかもとても口では言えないような事をされたような
気もするが、それも良く覚えていない。

しかし、期待を受けて送り出された手前、手ぶらで帰るわけにもいかず、ヴァニラは再び
重い足取りでタクトの部屋に向かった。

やがて、ヴァニラはタクトの部屋の前に到着した。普段なら医務室からタクトの私室まで
は徒歩でも3分もあれば着くのだが、立ち止まりながらゆっくりと歩いた上に、思いつく
限りの回り道をしたので、既に医務室を出てから30分は経過している。部屋の入り口に
は、部屋の主であるタクトの在室を示すランプがついていたが、どうしても呼び鈴のボタ
ンには手が届かなかった。


そんな状態でヴァニラが5分以上タクトの部屋の前でウロウロしていると、突然「シュン」
と音がして、目の前のドアが開いた。

「…ん? ヴァニラ?」

おそらく艦内のコンビに飲み物でも買おうかと出てきたのであるう。そこにはパジャマの
ようなラフな姿をしたタクトがいた。硬直しているヴァニラに問い掛けるタクト。

「どうしたんだい、ヴァニラ? 俺に何か用かい?」

ヴァニラは本能的にタクトに背を向けて一目散にこの場から逃げようとしたが、この状況
で逃げたりしたら、まるで自分がやましい事をしていたようだし、それ以前に膝がガクガ
クと震えてとても逃げ出せるような状況ではなかった。

「ん…まぁここで話すのも何だから、とりあえず入って」

そんなヴァニラのただならぬ雰囲気を察したタクトは、ヴァニラを部屋へと招き入れた。



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