蘭花×ミルフィーユ

大昔の神話世界には、人間は三種類に分けられていたという。
現在では当然男と女だが、昔は男男と男女と女女によって成立していた。二人の人間が抱き合うようにして、一人の人間ができていたのだ。
だがその人間を、神様が刃物でまっぷたつにしてしまった。
それが何を意味するのかはわからない。神の気まぐれか、それとも突発的な破壊行為か。
人間の罪に対する罰なのか、だとしたらそれは何だったのか。
何らかの啓示が含まれているようで、至極半透明。つかみ所がなく、すこぶる抽象的な神からの課題。
とにかくそのおかげで、人々は残りの半身を求めて彷徨い続けなくてはならなくなった。
人間とは元来、一人では生きられない生物なのだ。
ミルフィーユの心を支配しているものがある。一人の女性の存在。
その存在は大きく、身体に酸素を取り込む余裕すらない。
勿論、息苦しい。でも生命維持に必要なものでさえ、それを埋めるのがもったいなく思えたのだ。
その女性はミルフィーユの想いの中で膨張しすぎて、見え難くすらなっている。ビデオ撮影でよく映そうと近づきすぎ、ピンボケしてしまう。あれに似ている。
閉じ込められた女性は身をよじり、暴れる。どうやら母体の内は狭すぎるらしい。外に出ようとする。
ミルフィーユ自身、その衝動を抑えることができない。破裂しそうだ。
心の許容量をわずかに超えたとき、ミルフィーユの口からその存在が零れ落ちた。
「…蘭花さん」
恋愛にはルールがある。
それは誰が定めたものでもないが、当たり前のように決められた。
「同性同士で愛し合ってはならない」
このような感情は人の道から外れており、正常ではない。
ミルフィーユを苦しめる強引な理論。何故情操を束縛する必要がある。そんな権利が誰にある。
(ただ身体の形成が同じなだけで、どうして好きになっちゃいけないの…)
言葉にならない情緒のうねりが、ミルフィーユを乱す。
「好きだよう、蘭花さぁん…」
唯一、言葉にできるものだけを吐き出していく。
「好き」、「愛してる」、「交わりたい」……。
まるで降り積もる雪を除雪するかのような作業を繰り返す。だが、吹雪のように荒れ狂う劣情には無意味だった。
ミルフィーユはスカートを下ろし、下着を脱いだ。
湿った陰部に指を入れる。罪悪感が毒を消した快感と、接触する。
初めてとは思えない手際の良さは、本能がさせた行為だからであろう。
指を吸い込んだ陰部が寂しそうに泣いている。
だがその慟哭は、寂寥感に潰されたからではない。
不安の中で優しさに触れた時の涙、あれにそっくりだ。うれし泣きというのだろう。
「…ミルフィーユ、ちょっと入っていい?」
ドアの向こうから声がする。唐突だったので、声の主までは判断できなかった。
快感を触れることに夢中だったため、声をあげる余裕がなかった。そのことに救われた。
ミルフィーユは下着とスカートを同時に穿く。なかなか器用なもんだな、自画自賛する自分に少し照れる。
泣き止まない陰部が下着を濡らすのを気にしながら、ミルフィーユはドアを開けた。
「あれ、蘭花さん」
ドアの前に立っていたのは蘭花だった。心拍数が上がる。
まるで自分の想念がそのまま形象化したようだ、ミルフィーユは錯覚と友達になる。
実体があるか確かめるため、蘭花の頬をつねってみる。このような奇行も、普段のミルフィーユなら日常茶飯事。それを利用した。
髪を軽く引っ張る。これは天然だった。大切なものを壊したい、そう思ったからだ。
その途端蘭花の眼の色が変わり、飛び掛ってきた。天然ボケに対してこのツッコミは烈し過ぎやしないか、ミルフィーユは面食らう。
「あんたのそういうとこ、かわいすぎ…」
ミルフィーユは蘭花に強く抱きしめられ、骨がきしんだ。けれど不思議なことに痛みは感じなかった。
蘭花がミルフィーユの制服を剥ぎ取ろうとする。抵抗する気にはなれない。
うしろでドアが閉まる音がする。その瞬間、何か異空間に閉じ込められたような、そんな気分になった。
「ごめん、ミルフィーユ…。もう抑えられないの」
胸の下着を剥がした時、蘭花は謝った。
それがまるで乳房に言っているように見えたので、ミルフィーユは「蘭花さん、違います。こっちですよ」と言いかけた。
「こんな清純な子、汚しちゃいけないよね」
蘭花の眼は潤んでいた。何かと闘っているらしい。
ミルフィーユにはそれが何かわかる。だからこそ、蘭花に苦しんでほしくなかった。
「いいんです、蘭花さん。私もあなたにこうしてほしかったから」
ミルフィーユが、涙ぐむ少女の肩に手を回す。力を込め、引き寄せる。
二人の身体が触れあう。一つになりたいのに、肉体が邪魔して歯痒い。
互いに自己意識を投射し、交換し合う。両端を引っ張っていたゴムを一気に放したような、そんな感じで二人の距離は縮まっていった。
母の象徴である乳房に抱かれながら、蘭花は出せる限りの水分を瞳から流した。
その水は川となり胸の谷間に溜まる。そこにできた湖からは、微かに羊水の匂いがした。
ミルフィーユは、蘭花にできた涙の川を舌で拭いてやる。
なめらかな感触が頬を伝う。
突如訪れる乱暴な衝動。大切なものを壊したい、先ほどミルフィーユが感じたものが、蘭花に投射された。
たわわに実った二つの果実を、鷲?みにする。もぎれそうになるが、ミルフィーユはそれでも構わないようだ。
この子は痛みを快感に変える術を知っている。それはどこから学んだわけでもない。
愛が昇華した究極の形、ミルフィーユが一人で辿り着いた楽園だ。
今度はミルフィーユが蘭花の服を脱がす。
優しく、まるで卵の薄皮を剥がすように丁寧に脱がしていく。
豊満な二つの乳房が顔を出した。
重量感こそあるが、乳輪の形はお世辞にも綺麗とはいえない。でもミルフィーユはこんな蘭花の不完全さが大好きだった。
ミルフィーユが蘭花の鎖骨に接吻をしたとき、あるものに気づいた。
左の肩口に這う、ミミズのような一本の線。
「蘭花さん、これ何です?」
ミルフィーユが無邪気に尋ねる。
「ああこれ、任務中に怪我したのよ。異星人との交戦中に。傷跡、残っちゃったのよね」
それがどうかしたの、という顔で蘭花が応答する。
「実は私も同じような傷、あるんですよ」
ミルフィーユは右肩を見せながらニッコリと笑う。そこにはやはり、ミミズのような傷跡が残っていた。
「お料理中に怪我しちゃったんですよ。手を滑らせて、包丁で」
お茶目にはにかむミルフィーユが、すごくかわいい。蘭花は慈しむようにミルフィーユを抱いた。
「バカね、何でこんなとこ切るのよ。」
今まで運だけで生きてきたような不安定さが、私を惹き付ける吸引力なんだろう。蘭花はミルフィーユを離してはいけないような、そんな気分になった。
こうして抱き合っていると、一つになっていく気がしてくる。互いを別つ肉体という壁が、取り外されていくのだ。
二人の肩に残された傷跡は、もしかしたら神様が切り離した時についたのかもしれない。



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